(院長の独り言)生後半年から卵を食べさせると、卵アレルギーの発症を予防できる?

STAP細胞並みのタイトルが、ネット上や新聞の紙上に踊った。原文を読んでいないし、ネットのサマリーを読んだだけなので、コメントすべき立場にはない。同じ世田谷区でいつもお世話になっている成育医療センターのデータであり、国立小児病院からの流れで、私は繋がりが深いと(勝手に)思っているので、過激な発言は避けたい。当院の入り口にの左には鏡があり、「国立小児病院アレルギー科」の名前が書かれている。今の成育医療センターのアレルギー科の前身である。
当時の医長は飯倉洋治先生。研修医を終えた頃から、学会などで大変お世話になった。私が1990年の3月に静岡のこども病院を退職して、開業準備で東京に出てきた時に真っ先に会いに来てくれた。「開業祝をやろう。俺が取り仕切ってやる。お祝いも送るからな」と言って、開業日(7月1日の日曜日)に真っ先に駆けつけて、1日付き合っていただいた。内覧会ではなく、20数名の関係のあった医師だけの集まりであった。その時にいただいた鏡が、入口にある。飯倉先生は昭和大学の教授になられて、病のために亡くなられた。今の私の年齢である。私は仕事で葬儀に出席できなかったが、長女と次女が代理で参列した。今でも残念でならない。
前置きが長くなり過ぎた。生後6か月から卵を与えた60名の8%が卵アレルギーに、与えなかった61名の38%が卵アレルギーになった。症例が少なく、極端なデータである。STAP細胞の時には再現性が問題となった。臨床のデータは再現性は問われない。というより、再現性を確認することができないのだ。「だって、対象が違うからでしょう」という逃げ道があるから。対象とは患者さんのことで、全く同じ人を対象とすることはできない。高血圧の薬の捏造が発覚したのは、治験に参加した医師の内部告発から。臨床研究の弱点はそこにある。私は臨床研究を専門にしてきたが、取り消したい論文が3つある。
論文はかまわないのだが、ネットや新聞報道はやっかいだ。保護者が勝手に判断して、食事を与えると大きなトラブルを起こす。私は30年以上アトピーや食物アレルギーを専門にして、多くの患者さんを診察してきたつもりだが、このデータには違和感を覚える。臨床で38%と8%もの差(といっても症例数が少なく、統計学的にどこまで有意かは知らないが)は、いくらなんでもあり得ない差にも感じるし、ただ単に偶然という解釈もある。生後すぐから湿疹があってかゆがる乳児や、兄弟に食物アレルギーのあるハイリスクの乳児は、卵を与える前に主治医かアレルギーを専門にしている医師に相談することをお薦めしたい。保護者の方が勝手に判断することは避けるべきだと思う。